夏の思い出
『この夏、しっかり稼ぎたい方へ
冒険者求む! 腕が立ち、子供の引率得意な方、大募集!』
冒険者ギルドで、季節限定急募依頼を見つけました。
見た瞬間、セラにぴったりだと思いました。
セラは意外と面倒見いいのです。料理も生活習慣もきちんとしている人なので、学生相手の野外活動(=キャンプ)に適任だと思います。
さっそく誘ってみましたが、セラは不機嫌そうな顔をしたあと言いました。
「子供の引率とサバイバルと教育なら、むしろロイの方が適任だ」
わたしもそう思いましたが、お兄ちゃんは、お義姉さんと夏のバカンスで竜王の島に行くとはりきって出かけてしまった後です。セラも思い出したらしく、一瞬悔しそうな顔をしました。
「フン、そうだったな」
悔しがるくらいなら、一緒に行けば良かったのに、と思います。
あなたたちも一緒にどう? とお義姉さんは言ってくれたのに、邪魔などせん、と断ったのはセラです。わたしは一緒に行きたかったので残念です。
もしかしたらセラは、姉と親友、仲の良かった二人がくっついて、除け者にされたようで、内心寂しいのもしれません。
なんだったら今から追いかけようか? と誘ってみました。
幸いわたしは水着も買ったばかりです。
セラは元から腹だしなので、水着も普段着も関係ないから、いらないようです。
「……お前、水着なんていつの間に買ったんだ?」
この間、エステルとリベルダムで会ったときだと答えました。
半ば強引に進められたのです。
『何やってんのルシカ! 夏なんだよ! まだセラとそんな調子なの? ここでのんびり冒険なんかしてる場合じゃないよ』
エステル曰く、夏は恋の季節なんだそうです。心が熱く燃える季節なんだと、ガルドランみたいなことを言っていました。
でも親友の助言なので、ちょっと頑張ってみました。
――ビキニにしてみました。
色は白です。水玉模様入りです。パットは特厚仕様です。
もちろんセラ相手なので、反応に期待なんてしてません。
……してはいませんが、ひょっとしてひょっとすると、もしかしたらということも、あるかもしれません。
それとなーく、白いビキニ・水玉柄なんだよーと言って、反応を伺ってみました。
すると、セラが日光が日蝕になった! という報告でも聞いたかのような驚き顔でこちらを見ました。
そんなに驚かなくてもいいと思います。大変に失礼です。
更にセラは失礼でした。
横目で、こちらの足下から頭までを眺め、目を違う方向に向けて、鼻で一笑。
「フッ」
どうやら、脳内でお姉さんと比べたらしいです。
いい加減姉離れをして欲しいです。
でもアーギルシャイアだったお姉さんを思い出すと、確かに勝ち目はないかもしれません。
* * *
敵を知るには味方からです。バカンス帰りのお兄ちゃんを捕まえて、それとなく女の人のどんな夏姿に惹かれるか尋ねてみました。
兄は爽やかに答えてくれました。
「ストラップとヒールかな」
さすが兄です! 女性の魅力はまずは足下からだったようです。
バカンスは楽しかったらしく、兄は口笛を吹きそうな勢いで、ごそごそとバカンスに持っていった品の片づけをはじめました。
荷袋から、次々と夏の娯楽グッズが出てきます。
縄とアイマスクが出てきました。
「何に使ったの!? お兄ちゃん」
「はははー。スイカ割りさ。ルシカ」
ロウソクと手錠が出てきました。
「何に使ったの!? お兄ちゃん」
「はははー。肝試しさ。ルシカ」
毒の投げ矢と束縛の糸が出てきました。
「何に使ったの!? お兄ちゃん」
「はははー。虫除けさ。ルシカ」
そう言ってお兄ちゃんは、次々と道具を片づけていきます。
時々どこか痛そうに顔をしかめます。
怪我でもしたの? と聞いたら、日焼けが痣みたいに赤くなってて痛いのだそうです。
「はははー。縄目模様に焼けてしまってね。ちょっと人には見せられないかなあ」
……親友・エステル曰く、夏は、恋と愛の季節なんだそうです。
どんなバカンスだったのか詳しくは聞いていませんが、兄の夏はとても楽しかったようです。
2012-10-31
ルシカの水着・特厚仕様と、お兄ちゃんの回答に突っ伏しました。