2日目 

 翌日早朝、ふぎゃーっという猫のけたたましい鳴き声で、セラたち三人はたたき起こされた。
 すかさず周囲を見渡す。案の定、枕元の籠は空っぽで、夜が明けたばかりの薄い陽光が差し込んでいる窓が、ごくわずかに開いていた。
 昨日の夜には、きっちり閉めたはずだが、施錠まではしなかった。どうやら爪でも引っかけ、自分で開けたらしい。
 猫のくせに……!
 知恵だけはやたら回り、中途半端に器用なので質が悪い。

 セラは身体を起こしたが、その間も、ふぎゃふぎゃふぎゃ! と猫の興奮したような鳴き声が聞こえてくる。
 どうも声は庭から、そして聞く限り、一匹だけではないようだ。
 ナッジが首をかしげ、昔を思い返しながら呟いた。

「テラネの村はずれで寝起きしてたときにも、こういう猫の鳴き声をよく聞いた気がする」
「テラネも野良猫多かったからね。特に森の入り口あたりで、うろうろしてたよね」
 レルラが頷きながら相づちを打った。
「この時期って、猫の恋の季節だから、興奮しやすいんだよ」

 ぴたりとセラ、レルラ、ナッジの三人の動きが止まった。
 慌てて窓を全開にして、表を見る。
 途端に、猫屋敷の裏庭を、ぴゅーっと一心不乱に駆け抜ける白い塊が目に飛び込んできた。放たれた矢のような、見ているこっちも感心するくらいの勢いで、白猫が疾走している。その白猫を、倍ほども大きく獰猛そうな三毛猫が追いかけていた。

「ふぎゃ、ふぎゃふぎゃ!」

 鼻息荒く、三毛猫が何か叫んでいる。
 身軽で小柄な白猫を『しなやか』と形容するなら、三毛猫の方は『貫禄ある』と言いたくなるような、丸い身体の猫だった。走るたびに、どすどすと重たい音が聞こえそうだ。
 そんな三毛猫を振り返りつつ、白猫も走りながら早口で答えた。

「にゃああ、にゃにゃ、にゃにゃー!!!」
(ぎゃああ、来ないで、来ないでー!!)

 何故俺が、猫の面倒などみなければならん。
 昨夜から何度も繰り返される心の訴えは大きかったが、深くため息をつくと、セラは渋面のまま上着を掴んで袖を通し、窓枠に足をかけた。
 レルラとナッジもすばやく身支度を調え、セラに続く。
 冒険者の一行だけあって、寝起きの一騒動も仕方のないことなのだと慣れていた。誰のせいとは言わないが、このパーティを組んでから、歴史の動きも慌ただしく、時には夜中にたたき起こされることさえあった。不測の出来事は、予測できないからこそ不測なのだ。



* * *



 にゃあああぁぁあという猫の声が、遠くなったり近くなったりしながら森に響き渡る。
 周囲には清々しい朝の空気が満ちていたが、それを味わう間もなく、白猫の捜索が始まった。
 しかし相手は猫だけあって――簡単ではなかった。
 相手を巻こうというのか、少しでも足場の良い場所を探しながら走っているからなのか、白猫と三毛猫は飛び出た石の上に飛び乗り、木々の枝をかいくぐりと大騒ぎながら、猫屋敷の裏庭を縦横無尽に駆けめぐる。じっとしていてくれれば良いが、逃走劇中の白猫にそれは無理な相談だろう。目で追うことすら困難だった。

「ルシカ、こっちだよ!」

 ナッジが白猫の姿を見かけるたびに声をあげるが、必死の白猫は応じる余裕もなく、テレポートかと思うような素早さで残像を残して走り去る。その後ろを色の付いた毛布のような三毛猫が、転がるように追いかけていく。
 小柄で俊敏な白猫よりは、身体の重たそうな三毛猫を取り押さえた方が早いと考えたのか、ナッジは三毛猫の方にも腕を伸ばすが、こっちはこっちでどすどすどすという不思議な駿足で器用に森の木の根を飛び越え、つかまりそうでつかまらない。

「や、槍じゃなくて、網が欲しい……」
 ナッジが半分泣きそうな顔になりながらも、頑張って猫を追いかける。

 一方セラは、猫を追いかけるのではなく、猫が潜り込みそうな物陰や小さな隙間に先回りする作戦で白猫確保に努めたが、運が良い方ではないので、なかなか当たりを掴めなかった。
 一度だけ読みがあたって、軒下で休んでいた白猫に腕を伸ばし、背後から捕まえるのに成功したのだが、この白猫はよくよく見ると、顔に一カ所黒ぶちがあり、顔も気持ち平べったい。思わず舌打ちして解放したら、黒ぶち白猫はふんと鼻を鳴らすと、しっぽを振って歩き去っていった。
 猫屋敷には、野良猫もそれなりに棲みついているようで紛らわしいことこの上ない。
 しかも野良猫の割には図太い猫も多く、何故か人の手を畏れず、こちらを小馬鹿にするかのように悠然としているのが腹立たしい。猫は猫で個性が色々あるようだ。

 屋内ならともかく、野外に出てしまえば、簡単には捕まらない。それが猫だ。
 ぱっと姿が葉陰に消えたかと思うと、思いもかけない場所から姿を現す。いたと思ったら、すぐさま軒下へと身を翻す。
 ましてや今は、獲物を追うものと追われるものの関係で、本能全開になっている全力疾走の猫なのだ。人の足と目で容易に追いつけるものではない。

「ふぎゃふぎゃふぎゃー!」
「にゃん、にゃにゃにゃーー!!」

 騒ぐ声だけが聞こえ、遠くなったり近くなったりするから、ひとまず白猫はまだ鬼ごっこの最中のようだが、だからといって、いつまでも逃げ切れる保証もない。

「ど、どうしよう!」
「ナッジ、セラ! 玄関脇の樹の下! あ、今ぐるっと窓の下を回りこんで、そっちに向かうよ!」

 頭上から声が降ってきた。
 いつの間にかレルラが猫屋敷の屋根に昇っていた。弓矢を扱う身軽なリルビーだけあって、目も良く、傾斜のある屋根の上でも陸上と変わりなく動きまわり、鳥の視点で猫二匹の追跡模様を実況する。

「あ。床下にもぐっちゃった。……出てきた!
 奥の菜園にまっすぐ逃げていくよ! ルシカ、速いなあ」

 感心したようなレルラの声に誘導され、セラとナッジが裏手に回ると、ちょうど菜園で野菜を摘んでいるオルファウスに遭遇した。

「おや、みなさん、お揃いで。早いんですね。朝食はもう少し待ってください。今朝は、この野菜を煮込んで、スープにしようと思うのですが構いませんか?」
「そんなことはどうでもいい」
「失礼だよ、ぼくたち居候なのに。すみませんオルファウスさん。ここにルシカが来ませんでしたか」

 いつもならセラの無礼をフォローするのはルシカの役目なのだが、そこはパーティの連帯感でナッジが代役として頭を下げ、オルファウスに尋ねた。

「さっき畑の脇をすり抜けて、走っていきましたよ。ほら、あそこに。おやおや何やら物々しい雰囲気ですねえ」

 のほほんとオルファウスは、畑の裏手、作業道具などが置かれている広場を指さしたが、白猫と三毛猫の追いかけっこは、ここであらたな局面を迎えたようだった。
 逃げ回っていた白猫がくるりと方向を変え、そのまま森へと続く巨木を背にし、四肢を地面に踏ん張り、シャー、フーっと、ふいている。荒々しくあけた口からは、小さいながらも鋭く尖った歯がのぞく。
 対する三毛猫も、上体を膨らませ、眼光鋭く相手の様子を伺いながら、じりじりと間合いを計っている。
 どう見ても、二匹とも、臨戦態勢となっている。

 セラはもう、ため息しか出てこなかった。
 ナッジは、固唾を呑んで握り拳をつくっている。
 いつの間にかそっと忍び寄って二人に追いついたレルラが、目の前の小さな決闘を見逃すまいと目をこらした。

 二匹は、互いに距離を保ちながら高い声で相手を威嚇していたが、突如三毛猫が、地面を蹴って飛びかかった。
 白猫も一気に飛び上がる。
 一瞬毛玉と毛玉が空中でぶつかったかのように見え、もつれ合いながら地面に転がった。
 ごろごろと転がる間にも、両者ともに牙をむき、爪が出る。
 白猫が、低い体勢から相手の顔面めがけて猫パンチを繰り出せば、相手の三毛猫は喧嘩慣れしてるのか、恐れる様子もなく頭を引く。そのままふんっと身体を膨らませて、その胴体で相手の身体ごと押さえ込もうと飛びかかれば、白猫もすぐさま身体を捻り、相手の爪を交わす。
 お互い喉元を狙っているのか、盛んに前足を相手の首にかけようとしながら、上下入れ替わり立ち替わり、くるくるとその場を転がる。
 牙と爪がひらめき、猫の威嚇の声が響き、あたりに猫の毛が飛び散る。なかなか壮絶な光景だ。

「……二匹とも本気だ」
「まずいんじゃない? このままだと大怪我するよ」

 白猫がぱっと後ろ足で相手を蹴り、一度間合いを計るように、相手から離れた。逃げ腰のようにも見えたが、闘志はまだ失われていないらしく、四肢を踏みしめ、ふしゅーっと空気を振るわすような声を上げながら、再び相手を威嚇し出す。
 三毛猫も負けじと鳴き返し、ふたたび睨み合いになる。
 相手をそのまま噛み殺しかねない本気の猫の喧嘩――ついでに言うと、経験と体格の差から白猫の方が不利に思える様子――に、徐々に見ている三人にも不安が募る。
 呑気に観戦している場合ではなかろうが、冒険者同士の乱闘ならともかく、四つ足の獣の喧嘩だ。いや四本脚の獣にも慣れてはいる。もしこれがキマイラとグリフォンが争っていたら、放っておいて先に進むだけだ。
 要するに冒険者の心得外の、日常生活サイズの闘争には慣れていないのだ。
 どうにかせねばと思いつつ三人が手をこまねいていると、そんな三人の背後から別の声が響き渡った。

「にゃあああああ!」

 新たな強敵の参戦か!と喧嘩をしていた猫二匹が、びくっと背筋を立て、あたりをせわしなく見回した。
 四つ足の獣たちだけではなく、二本足の人間、コーンス、リルビーも不意を突かれ、振り返る。
 喧嘩中の猫と違い、三人はその鳴き声に聞き覚えがあった。
 三人の目が一斉にオルファウスに注がれる。

「喧嘩をやめさたかったようなので。助力させていただきました」

 猫の鳴き真似をしたハイエルフは、三人の視線を受け止めて、しれっと告げた。
 さすが猫屋敷の主人だけあって、猫の扱いは慣れているらしい。突然割りこんできた怪しい鳴き声に、三毛猫は不穏なものを感じたのか、不意に威嚇をやめると、身を翻した。どすどすどすと貫禄ある足取りで森の奥へと駆けていく。
 白猫も戸惑ったようにきょろきょろしていたが、オルファウスが近づくと、ひとまず危機が去ったのは分かったようで、そのままオルファウスの腕に素直に抱き上げられた。

「求愛を断ったら喧嘩になっちゃったのかな……」
「猫になってももてるんだね。ルシカって」
 賢者の腕の中の白猫にナッジとレルラが声をかけると、オルファウスが笑った。
「あの三毛猫は、身体は大きいですが雌ですよ。この辺を牛耳っている存在のようで、私たちは『女王』という呼び名をつけています」
「『女王』」

 げっそりとセラは呟いた。なるほど、ルシカにとっては天敵に違いない。
 ルシカはセラを見ると、にゃあああと、一声あげる。

(ここここ怖かったよーーー!! でもあたし頑張ったでしょ!)

 褒めろ、と言わんばかりの態度に、セラにしては珍しく、起きたばかりだが再び寝台に戻りたい衝動にかられた。



* * *



 なんだかんだあって懲りたのか、それとも朝っぱらから走り回って疲れたのか、その後、猫ルシカは外に飛び出すこともなく、屋内で大人しく過ごしていた。
 大人しく――若干、大人しすぎる気もした。
 猫屋敷に戻ってきてからの白猫は、少しばかり元気がない。
 ミルクはたいらげたが、どことなく気怠そうで、しっぽもたらんと垂れている。眠いのかと思ったが、どうもそうではないようだ。

「怪我はしていないようですが。怖い思いをしたのが、今になってきいてきたんですかねえ」

 朝食後、ミルクを差し出したついでにルシカの様子をチェックしたオルファウスは、白い猫を膝に抱き上げ、毛を梳きながら首をひねる。
 一方不思議に感じているのは当のルシカも同じようで、賢者の膝の上に座って毛並みを整えてもらいながらも、ちょっと小首をかしげた。
 それから、何故かセラの方を向いて、一声鳴いた。
 朝に一騒動あったので、朝食は予定していたよりも遅くなってしまった。食卓を囲んだまま何となく話し合いの流れになり、セラのほか、ナッジとレルラも席についている。
 頬杖をついていたセラは、突然自分に矛先が向かって、顔だけ軽く猫に向けた。

「何だ?」
「そういえばセラ、褒めてあげなかったでしょ。それでがっかりしてるんじゃないの、ルシカ」
「何故そういうことになる」

 レルラの言葉は全く胸に応えなかったが、セラは頬杖をついたまま、悟られぬよう片眉をあげた。
 にゃああと三毛猫の手(足?)から脱したルシカは、真っ先にセラに向かって鳴いた。
 褒める褒めないは抜きにして、あのとき確かに、何かよぎったものがあったような気はしたのだが――。

 ルシカが、そんなセラをじっと見ている。
 青い目に見つめられると、背筋の辺りに緊張に似たものが走る。
 ルシカ(※人間の方だ)は、時々直感めいた鋭さを発揮する。だから何か考え事をしているときになどに、ルシカに見つめられるのは苦手だった。青い空の瞳が閃くと、心を見透かされる気がするのだ。
 いや、しかし今は――猫だ。
 ルシカが混ざっているらしいが、それでもこの生き物は、基本は普通の白猫だ。白猫の身体と心に、ルシカの魂が混ざっているだけ、間借りしている状態なのだ。セラに恐れもせずに懐くなどルシカの影響がちらほら出てはいるようだが、白猫の要素の方がはるかに濃い。本能や行動の主軸は、やはり猫のそれによるのだろう。

 と思っていたら、するりと白猫はオルファウスの膝元を抜け出し、セラの足下にやってきた。
 何だ? と思う間もなく、ひょいっとルシカはセラの膝に乗っかった。

「何だ貴様!?」
「な、撫でて欲しいんじゃないのかな……セラに」

 ナッジがおずおずと告げたが、撫でて欲しかったらぼくが撫でてあげるのに、と付け加えた。どうやらナッジは、猫ルシカが自分にあまり懐いてくれないのが寂しいらしい。
 セラの戸惑いやナッジの寂しさなど無視して、ルシカはにゃあとセラに催促するように鳴いた。
 ほれほれ、と頭をすりつけるように突き出す。

「何故俺が猫など撫でなければならん!」
「それはルシカに言いなよ。答えてくれるとは思えないけどね」

 うそぶくレルラをにらみ返し、仕方なくセラが無造作に白い頭を撫でてやると、ルシカは気持ちよさそうに目を細めた。
 仏頂面のセラと喉を鳴らすルシカに、ナッジがうらやましそうな目を向けた。いいなあ猫……と切なそうに呟いている。自己主張の少ないナッジだったが、どうやら密かに猫好きだったようだ。動物は外見で相手を判断しないからコーンスである自分を感じずにすむからかもしれない。
 レルラが面白そうに問いかける。

「もしかして、セラは猫……ううん、動物は苦手?」
「得意でも苦手でもない。が、わざわざこうして面倒を見ようとは思わん。猫には猫の生き方がある。好きに生きればいい」

 素っ気なく告げたが、姉のことが思い出された。
 自分たちの事で手一杯なのだ。猫など飼える状況ではなかった。
 だが姉は、生き物は、好きだった。近所の野良猫を見かけては、あの猫はどこの子かしら、どうしているのかしらと気にかけていた気がする。残念ながら、手元に余裕はないので、たとえ猫を見かけても、餌をやり、話しかけることはできなかったようだったが。
 ようだった……という言葉が続くのは、セラ自身は、あまりよく覚えていないからだ。
 人に余裕がないのだ。猫もまた、人に尻尾を振っても餌をもらえないことは知っている。
 人懐こさよりも警戒を抱き、姿を見せても、すぐに人目を避けるようにするりと姿を消していった。猫の姿として覚えているのは、遠目にすっと横切って立ち去る背中ばかりだ。

 相棒のことを思い出す。
 ロイもおそらく動物は嫌いではないはずだ。
 薬草の知識が豊富だったのは、故郷の森では、傷の手当ての為に、必要になるからだと言っていたが、もちろん人間相手の必要性だったのだろうが、ルシカの話では、森で怪我をした動物を見つけては連れ帰ってきて、怪我が治るまで面倒を見てやり、やがて村の外に帰すことを、たびたび行っていたようだ。
 剣の腕は知っているが、そうした生き物の世話をする姿を見る機会はなかった。
 薬草の知識が豊富なように、野生の生き物の生態についても、それなりの知識はあるに違いない。セラはそれを、気にかけたことさえなかったが。

 ふと撫でる手が止まったのに、猫は敏感に気付いたようだ。
 にゃあと催促するように――あるいは気のせいかもしれないが気遣うように――鳴かれ、セラは目をそらすと、気になっていたことを尋ねてみた。

「いつまでも猫の面倒など見ているわけにはいかん。さっさとこいつを元の姿に戻してもらおう。
 そもそも事故だというが、具体的にはどんな状況だったのだ? 白猫に混ざったということは、この白猫がいた場所……屋外で起こった出来事だったのだろう?」
「外っていうか、お茶を飲んでいたら、その間にネモが、ルシカの荷物入れの中から禁断の聖杯を抜き取って、口にくわえて逃亡してさ。ルシカが『あーっネモ!』って叫びながら追いかけて。ね、ナッジ?」
「うん。ぼくたちもすぐに追いかけたんだ。そうしたら、猫屋敷の玄関を出た先のところで、目の前でもの凄い閃光が走って。ルシカの姿が、インビジブルをかけたときみたいに、急に消えて……」
「無限のソウルの気配を漂わせる白猫が、一匹残されていたってわけ。あ、ねえ。ルシカが猫になる瞬間、ちらっと見えたもう一匹の大きな白い豹みたいな生き物って」
「ええ。ネモの本来の姿ですよ。まったく、あんな大きな図体をしていては、猫屋敷で暮らすことはできないでしょうに」

 猫屋敷で暮らしていくのが不満だったから、元の姿に戻ろうとしたんじゃないのか?
 レルラとナッジに交互に説明を受け、最後のオルファウスの台詞を聞いてセラは思ったが、オルファウスは今の会話から別の答えを見つけたらしい。

「ああ。でも、そうですね……外で起こったことだったんですよね」

 セラの膝の上に乗ったままのじっと白猫を見つめ、オルファウスは拳を口に当て、しばらく何やら考えて込んでいたが、目を上げるとセラに微笑む。

「お手柄ですね、セラ。もしかすると、ルシカさんが猫になった原因が掴めるかもしれません。
 明日は屋敷の外、賢者の森に、ルシカさんを連れて行ってみませんか?」